事例の背景
「スタッフには長く勤めてほしい。だから要望に合わせて昇給させてきましたが、気づけば自分の取り分がほとんどなくなっていました」 千葉県内で開業して10年のA院長。スタッフの定着率は抜群でしたが、試算表の「人件費」の項目は年々膨らんでいました。
歯科業界の売上高人件費率は一般的に20〜25%、社会保険料を含めても30%程度が目安とされます。しかし、A院長の医院は**60%**に達していました。以前の会計事務所からは「人が辞めないのは良いことですね」と慰められるだけで、このままでは設備投資も納税もままならないという「経営の赤信号」を指摘してくれる人はいませんでした。
「優しい経営」が「行き詰まる経営」に変わる前に、他院と比較した自院の立ち位置(ベンチマーク)を知り、健全なバランスを取り戻したい。その一心で当事務所へ相談に来られました。
当事務所からのご提案
A院長の課題は、**「人件費の絶対額」ではなく「生産性との乖離」にありました。私たちは「キャッシュアップ顧問(スタンダード)」**として、以下の財務改善を断行しました。
「労働分配率」の見える化とベンチマーク比較
まず、医院が生み出した付加価値(粗利益)のうち、どれだけを人件費に回しているかを示す「労働分配率」を算出しました。 当事務所が持つ数多くの歯科経営データと比較し、A院長の医院がいかに「過剰分配」であるかをグラフで提示。スタッフを減らすのではなく、「今の給与額に見合う売上目標(生産性)」はいくらなのかを逆算し、院長と共有しました。
「どんぶり勘定」の昇給から「評価連動型」への移行
これまで「なんとなく」で行っていた昇給を廃止し、明確な賃金テーブルを策定しました。 「売上がこれだけ伸びたら、原資をこれだけ分配する」というロジックをスタッフにも説明。人件費を「削る対象」ではなく、全員で「売上を上げて、自分たちの給与を正当に守るための指標」へとマインドセットを変えるサポートを行いました。
ユニット稼働率の改善による「分母(売上)」の拡大
人件費率を下げる最短ルートは、給与カットではなく「売上アップ」です。 スタッフの人数に対してユニットの稼働率が低かったため、アポイントの詰め方を見直し、歯科衛生士による自費のメインテナンス枠を拡大。スタッフ一人あたりの「月間医業収入」を150万円以上に引き上げるロードマップを実行し、1年後には人件費率を適正な28%まで引き下げることに成功しました。
お客様の声
「『人件費が高い』と言われた時はショックでしたが、数字で他院と比較して初めて、自分の経営がいかに危ういか理解できました」 当事務所に相談するまで、人件費率は20%台が標準だなんて知りませんでした。以前は『スタッフが幸せならそれでいい』と思っていましたが、それでは新しい機材も買えず、結局は患者さんに還元できないことに気づかされました。
数字を根拠にスタッフと話をすることで、現場にも『自分たちがこれだけ稼がないと、昇給は維持できないんだ』という良い意味での緊張感が生まれました。
『人を大切にすること』と『数字を管理すること』は両立できる。当事務所に教わったこのバランス感覚こそが、今の安定した経営のバリューになっています。