事例の背景
「売上は上がっているはずなのに、なぜか毎月の給与日が怖くて仕方ない……」
東京都内で3つの歯科クリニックを経営するT理事長からご相談をいただいたとき、先生はまさに「拡大の罠」に嵌まっておられました。1院目は絶好調、2院目も順調。しかし3院目を出したあたりから、法人全体のキャッシュフローが急激に悪化。気づけば、分院スタッフの給与支払いが遅延しそうになるほどの綱渡り状態に陥っていました。
当時の顧問税理士は、年に一度の決算と、数ヶ月遅れで届く試算表を作成するだけ。「数字上は利益が出ていますから大丈夫ですよ」という言葉とは裏腹に、通帳の残高は減る一方。T理事長が「なぜお金がないのか?」と問うても、「社会保険料が高いからですね」「設備投資の返済があるからです」といった、一般論に終始する回答しか得られませんでした。
現場のスタッフからは「この医院、大丈夫なんですか?」と不信感の目が向けられ、理事長は診療中も資金繰りのことばかり考えてしまう。そんな限界状態で、セカンドオピニオンの門を叩かれました。
当事務所からのご提案
私はまず、「3つの分院を一つの財布で管理していること」が最大のリスクであると指摘しました。どんぶり勘定を脱し、各拠点の役割を明確にするために以下の3策を断行しました。
① 3分院それぞれの「部門別損益」を完全可視化
法人全体ではなく、本院と2つの分院、それぞれのPL(損益計算書)を切り分けました。結果、特定の分院が人件費率の高騰と材料費のロスにより、本院の利益をすべて食いつぶしている「赤字の元凶」であることが判明。感情論ではなく、具体的な数字を突きつけることで、理事長に「どの現場を立て直すべきか」の覚悟を持っていただきました。
② 「半年先まで見える資金繰り表」の構築
過去の数字を見る「試算表」ではなく、未来の現金を予測する「資金繰り表」を導入しました。レセプト収入の入金タイミングと、材料費・人件費・ローン返済の出金タイミングを日次単位でシミュレーション。これにより、「いつ、いくら資金がショートする可能性があるか」を2ヶ月前に察知し、事前に対策を打てる体制を整えました。
③ 銀行への「経営改善計画書」提出とリスケ交渉
資金ショートを回避するため、銀行に対して「現状の分析」と「今後の改善策」をまとめた計画書を提出。私たちが同行して説明を行うことで、返済の猶予(リスケジュール)を引き出し、月々のキャッシュ流出を大幅に抑えることに成功しました。
お客様の声
「給与日の前夜、眠れずに天井を見つめる日々が嘘のようです」
前任の先生は、数字をまとめてはくれましたが、経営の舵取りを一緒にしてくれる存在ではありませんでした。今回、3つの分院それぞれの経営状態を丸裸にしてもらったことで、「どこに問題があり、どこを改善すればいいのか」がようやくクリアになりました。
一番大きかったのは、資金繰り表によって『先の見えない恐怖』がなくなったことです。不採算拠点の経費を見直し、銀行とも対等に話ができるようになったことで、スタッフに対しても申し訳なさが消え、経営者として、そして歯科医師として前向きに再スタートを切ることができました。
年商数億円という規模は、気合だけでは回せません。もし少しでもキャッシュの流れに不安があるなら、早めに専門家の「真のセカンドオピニオン」を受けるべきだと、身をもって実感しています。