事例の背景
「私が倒れたら、このクリニックはどうなるんだろう。長年通ってくれている患者さんやスタッフを、路頭に迷わせることにならないか……」
50代後半を迎えたS院長は、ある種の日記のような「焦燥感」を抱えていらっしゃいました。お子さんは別の道を歩んでおり、親族に継承の予定はありません。売上は堅調で地域からの信頼も厚い。だからこそ、自分の引退がそのまま「廃業」を意味することに、強い罪悪感と不安を感じていたのです。
顧問税理士に相談しても、返ってくるのは「まだお若いですし、やめる直前に考えればいいですよ」という、実務を先送りにするような言葉だけ。廃業した際に手元にいくら残るのか、スタッフの退職金はどう準備すべきか、そもそも「誰かに譲る」という選択肢があるのかさえ、具体的な話は一切ありませんでした。
「このままでは、人生の最後を『逃げるように閉院』することになる」。そう感じたS院長は、まだ余力があるうちに、リタイアまでのロードマップを明確に描けるパートナーを求めて相談に来られました。
当事務所からのご提案
私はS院長に対し、「廃業はあくまで最終手段。先生が築いた価値を、正当な対価に変える方法はあります」とお伝えし、以下の3つのステップを提案しました。
① クリニックの「資産価値」と「営業権」の可視化
まず、現在のクリニックが第三者から見ていくらの価値があるのかを算定しました。歯科経営における「患者数」「自費率」「立地条件」は立派な資産です。これらを数値化し、M&A(第三者承継)を行った場合に期待できる譲渡対価を算出。単なる廃業ではなく「事業の売却」というポジティブな選択肢を提示しました。
② 税務メリットを最大化する「役員退職金」の設計
引退時に手元に残るキャッシュを最大化するため、役員退職金のシミュレーションを行いました。法人の利益をどう計画的に積み立て、どのタイミングで支払えば所得税・住民税を抑えられるのか。老後の生活資金として「いくら必要なのか」から逆算した、オーダーメイドの資金計画を策定しました。特に保険商品の活用というのは時に非常に効果的です。
③ 「第三者承継(M&A)」に向けた3〜5年の磨き上げ計画
後継者候補が現れた際、より高い価値で、かつスムーズにバトンタッチできるよう、経営の「磨き上げ」を提案しました。不透明な経費の整理、雇用契約書の整備、そしてドクターがいなくても回る仕組みづくりです。「明日やめる」のではなく「いつでも最高の状態で譲れる」準備を整えることで、院長の心の余裕を生み出しました。
お客様の声
「自分のクリニックに価値があるなんて、思ってもみませんでした」
先生に相談するまでは、廃業して器材を処分し、多額の解体費用を払って終わりだと思っていました。今の税理士さんには「まだ早い」と言われ続けてきましたが、先生から『50代後半こそが、最高の状態でバトンを渡す準備を始める時期』だと言われ、目の前がパッと明るくなりました。
具体的な譲渡金額の目安や、退職金で手元に残る金額をシミュレーションしてもらったことで、老後の不安が消えたのはもちろん、残りの歯科医師人生を「次の世代にどう引き継ぐか」という前向きな気持ちで過ごせるようになりました。
もし、後継者がいなくて漠然と廃業を考えている先生がいたら、一度自分のクリニックの『価値』をプロに見てもらうことを強くお勧めします。