椿 祐輔
監査法人・会計事務所での実務を経て、2012年に椿公認会計士事務所を開設。富裕層を対象としたプライベートバンク業務にて、「個人」と「法人」の資金設計や資産管理を行ってきた経験を活かし、歯科医院の“お金が残らない”という悩みに応えるキャッシュアップ支援を行っている。
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[相続・事業承継業務]
歯科医院の相続手続き|院長・理事長が亡くなったら何をするか、期限順に公認会計士が解説
歯科医院を営むお父様(院長)が亡くなった——その瞬間から、ご遺族には深い悲しみと同時に、次々と期限のある手続きが押し寄せてきます。しかも歯科医院の相続には、一般のご家庭にはない「医院特有の手続き」が加わります。
この記事では、まず誰にでも共通する相続手続きを期限順に整理し、そのうえで歯科医院ならではの手続きを、個人開業・医療法人の両パターンで解説します。顧問先の約半数を歯科医院が占める公認会計士の立場から、「何を・いつまでに・誰に」届け出るのかを具体的にお伝えします。
この記事でわかること
死亡直後(当日〜14日目)にやるべきことは、当事務所のYouTubeチャンネル「椿公認会計士の相続とお金」で解説しています。まず全体像をつかみたい方は、こちらの動画からご覧ください。
相続の手続きには、法律で期限が定められているものが多くあります。過ぎると、相続放棄ができなくなったり、加算税・延滞税がかかったりします。まず全体像を期限順に一覧で確認しましょう。
| 期限 | 手続き | 提出先など |
|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届・火葬許可申請 | 市区町村役場 |
| 10〜14日以内 | 年金受給停止、世帯主変更、健康保険の資格喪失 | 年金事務所・役場 |
| すみやかに | 金融機関への連絡(口座凍結)、公共料金等の名義変更 | 各金融機関・事業者 |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認の判断 | 家庭裁判所 |
| 4か月以内 | 準確定申告(亡くなった方の所得税) | 税務署 |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付 | 税務署 |
とくに注意したいのが3か月と4か月です。借金や連帯保証が財産を上回る場合、3か月以内に相続放棄をしないと借金を引き継ぐことになります。そして4か月以内の準確定申告は、後述するとおり、歯科医院の場合に特に重くなります。
ここからが、一般の相続解説では語られない、歯科医院ならではの手続きです。医院を「個人で開業していた」か「医療法人だった」かで、やるべきことが大きく変わります。
個人開業の医院は、院長の死亡によって、その院長個人の事業として営まれていた医院が終了します。ご遺族には次の判断と手続きが発生します。
①診療を止めるのか、誰かが引き継ぐのか
院長の資格(歯科医師免許・保険医登録)は一身専属で、相続できません。ご家族に歯科医師がいなければ、その医院で保険診療を続けることはできず、廃止の手続きに進みます。ご子息が歯科医師で引き継ぐ場合は、その方が新たに開設者となって開設・登録をやり直すことになります。
②医療機関としての届出(廃止/承継)
これらは「遅滞なく」行う必要があり、放置すると保険請求(レセプト)の扱いなどで問題が生じます。
③準確定申告が「医院の事業所得」で重くなる
亡くなった院長の、その年1月1日から死亡日までの所得を、4か月以内に申告します(準確定申告)。給与所得者と違い、歯科医院は事業所得があるため、売上・経費・減価償却・保険診療報酬などを締めて計算する必要があり、通常の準確定申告よりはるかに手間がかかります。窓口未収金や、死亡月の社会保険診療報酬の未収分の扱いなど、専門的な論点も多く発生します。
④従業員(歯科衛生士・受付など)への対応
⑤設備のリース・借入金
ユニットやCTのリース残債、医院の借入金がどうなるかは、契約内容と相続の仕方によって変わります。これらは相続放棄の判断(3か月)にも直結するため、早期の把握が必要です。
医療法人の場合、「法人」は院長の死亡では消滅しません。法人は存続し、その運営を担う人(理事長)と、出資持分の2つを引き継ぐことになります。
①理事長・管理者の変更
後任の理事長・管理者を誰にするかは、医療法人の要件(原則として医師・歯科医師であること等)を満たす必要があり、早急な検討が求められます。
②出資持分の相続——最大の税務論点
持分あり医療法人(2007年3月以前設立)の場合、亡くなった理事長が保有していた出資持分が相続財産になります。医療法人は利益を配当できず内部留保が積み上がるため、この持分の評価額が数千万円〜数億円に達していることがあり、多額の相続税がかかる可能性があります。
詳しくは別記事「歯科医院の贈与・相続時精算課税」で解説していますが、生前対策がないまま相続を迎えると、納税資金の工面に苦しむことになります(※内部リンク)。
※医療法人の準確定申告・法人の申告、理事変更登記などは、通常の相続に加えて医業特有の手続きが重なります。医業に精通した専門家の関与を強くおすすめします。
金融機関が院長の死亡を知ると、口座は凍結されます。個人口座で医院の資金を回していた場合、スタッフの給与、リース料、仕入の支払いが一斉に止まり、現場が混乱します。凍結解除には相続手続きが必要で、時間がかかります。
医院の帳簿が整理されていないと、準確定申告(4か月)にも相続税申告(10か月)にも医院の数字が固まらず、期限に追われます。日頃の記帳の整い方が、いざというときの明暗を分けます。
歯科医師の相続人が医院を継ぎたい一方、他の相続人は売却・清算を望む——といった対立はよく起こります。医院(事業)は分割しにくい財産のため、遺産分割が長期化しやすいのです。
ここまで読まれて、「相続が起きてからでは、あまりに大変だ」と感じられたはずです。そのとおりで、歯科医院の相続で最も効くのは生前の準備です。
これらは、院長先生がお元気なうちにしか着手できません。当事務所では、生前の承継設計から、相続発生後の医院特有の手続き・申告まで、医業に精通した体制で一貫してご支援しています。
「親の医院の相続で、何から手をつければいいか分からない」「自分にもしものことがあったとき、家族が困らないようにしておきたい」——初回のご相談は無料です。どうぞお気軽にお問い合わせください。
Q1. 歯科医院を営む親が亡くなりました。まず何をすればいいですか?
A. まずは死亡届(7日以内)や葬儀など、誰にでも共通する手続きを進めます。並行して、医院の診療を止めるのか引き継ぐのかを早急に判断し、金融機関・スタッフ・リース会社への連絡を行います。医院特有の届出と準確定申告があるため、早い段階で医業に強い専門家へ相談することをおすすめします。
Q2. 親の歯科医院を、歯科医師でない私が引き継ぐことはできますか?
A. 保険診療を行う医院の開設者・管理者は歯科医師である必要があります。ご家族に歯科医師がいない場合、その医院で保険診療を続けることはできず、廃止の手続きに進みます。建物や設備などの財産は相続できますが、資格は相続できません。
Q3. 準確定申告とは何ですか?いつまでにするのですか?
A. 亡くなった方のその年1月1日から死亡日までの所得を申告する手続きで、相続開始を知った日の翌日から4か月以内に行います。歯科医院は事業所得があるため、売上・経費・診療報酬を締めて計算する必要があり、通常より手間がかかります。
Q4. 相続放棄はいつまでにすればいいですか?
A. 相続開始を知った日から3か月以内です。医院の借入金やリース残債が財産を上回る場合などに検討します。判断には財産・負債の全体把握が必要なため、早めの調査が重要です。
Q5. 親の口座が凍結され、スタッフの給料が払えません。どうすれば?
A. 金融機関が死亡を把握すると口座は凍結されます。解除には相続手続きが必要で時間がかかります。一定額の仮払い制度もありますが、医院の運転資金は別途手当てが必要になる場合があります。早めに金融機関と専門家に相談してください。
Q6. 相続税の申告期限に、医院の決算が間に合いそうにありません。
A. 相続税は10か月以内が期限です。医院の帳簿が整っていないと数字が固まらず、期限に追われます。まずは概算で計画を立て、専門家とともに優先順位をつけて進めます。日頃の記帳整備が最大の予防策です。
Q7. 相続人の間で医院の扱いがまとまりません。
A. 医院(事業)は分割しにくい財産のため、もめやすい面があります。継ぐ人・継がない人の間で、代償分割(継ぐ人が他の相続人にお金を渡す)などの方法を検討します。評価と資金計画がからむため、早期に専門家を交えることをおすすめします。
Q8. 親が元気なうちに、しておくべきことはありますか?
A. 遺言書の作成、出資持分の生前対策、納税資金の準備、後継者への計画的な承継、経理資料の整備などです。相続が起きてからでは選べる手が限られるため、院長がお元気なうちの準備が最も効果的です。
※本記事は2026年7月時点の制度に基づく一般的な解説です。手続きの期限・要件は制度改正や個別事情により変わります。実際の手続きにあたっては、必ず提出先の窓口や専門家にご確認ください。
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