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歯科医院の贈与・相続時精算課税|承継で失敗しないための全知識を公認会計士が解説【動画付き】

  • 投稿:2026年07月24日
  • 更新:2026年08月14日
歯科医院の贈与・相続時精算課税|承継で失敗しないための全知識を公認会計士が解説【動画付き】


「そろそろ息子に医院を継がせたい」「開業する子どもに、まとまった資金を援助してやりたい」——歯科医院を経営される先生から、贈与や事業承継のご相談が増えるのは、たいてい先生が60代に入られた頃です。

贈与は、やり方ひとつで税負担が数百万円〜数千万円変わります。とくに歯科医院・クリニックの承継には、一般のご家庭にはない医療法人の出資持分という独特の、そして最も見落とされやすい論点があります。

さらに2024年(令和6年)の税制改正で、相続時精算課税という制度が大きく使いやすくなりました。従来の暦年贈与(毎年110万円)とどちらを選ぶべきか、判断の前提が変わっています。

この記事では、歯科医院の先生とそのご家族に向けて、贈与の基本から、歯科特有の落とし穴、2024年改正を踏まえた制度の選び方までを、顧問先の約半数を歯科医院が占める公認会計士の視点で整理します。

この記事でわかること

  • 2024年改正で使いやすくなった「相続時精算課税」の仕組みと、暦年贈与との選び方
  • 開業資金の援助や親子承継で、贈与税を抑える具体的な方法
  • 歯科医院最大の落とし穴「医療法人の出資持分」への備え方

まずは動画で「相続時精算課税」の全体像を

相続時精算課税の仕組み・使い方・注意点は、当事務所のYouTubeチャンネル「ドクターのための会計税務ch」でも解説しています。制度の基本を先に押さえたい先生は、まずこちらをご覧ください。

贈与税には2つの方式がある|暦年課税と相続時精算課税

生前に財産を渡す(贈与する)と、受け取った側に贈与税がかかります。その計算方式には、暦年課税相続時精算課税の2つがあり、どちらを使うかを選べます。

暦年課税|毎年110万円まで非課税の基本形

何も手続きをしなければ、贈与は自動的に暦年課税になります。1年間(1月〜12月)に受け取った贈与の合計が110万円まで非課税で、超えた分に贈与税がかかります。毎年コツコツ渡していく、最もオーソドックスな方法です。

2024年改正の注意点:贈与した人が亡くなったとき、亡くなる前一定期間の贈与は相続財産に足し戻されます(生前贈与加算)。この期間が、従来の3年から7年へ段階的に延長されました。つまり「亡くなる直前の駆け込み贈与」は、相続税の対象に取り込まれやすくなっています。早く始めるほど有利、ということです。

相続時精算課税|2,500万円まで一括で贈与できる

一方の相続時精算課税は、60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で選べる制度です。累計2,500万円まで贈与税がかからず(特別控除)、まとまった財産を一度に移せます。

名前のとおり「相続時に精算する」制度で、贈与した財産は、贈与した人が亡くなったときに相続財産に加算され、相続税で精算されます。贈与税を相続税に先送りするイメージです。

【2024年改正の目玉】相続時精算課税に「年110万円の基礎控除」が新設

従来、相続時精算課税は「一度選ぶと、暦年の110万円非課税が一切使えなくなる」ことが最大のデメリットでした。しかし2024年(令和6年)1月以降、相続時精算課税にも、年110万円の基礎控除が新設されました。これが非常に大きな改正です。

  • 年110万円以下の贈与なら贈与税は非課税、かつ申告不要
  • この年110万円分は、相続財産への加算も不要(暦年の生前贈与加算7年とは別扱い)

つまり、相続時精算課税を選んでも、毎年110万円までは「渡し切り」で相続財産にも戻らない。暦年課税の7年加算に縛られずに、確実に財産を移せるようになりました。改正後は、精算課税を選ぶメリットが大きく高まっています。

暦年課税と相続時精算課税、歯科医院の先生はどちらを選ぶ?

  暦年課税 相続時精算課税
非課税枠 毎年110万円 累計2,500万円+毎年110万円
向いている人 若い世代への長期の資産移転 60歳以上・まとまった財産を早く移したい
生前贈与加算 死亡前7年へ延長 110万円超の部分は相続財産に加算
一度選ぶと 暦年課税に戻れない(撤回不可)
申告 110万円以下は不要 選択時に届出。以後110万円超で申告

大まかには、「先生がまだ若く、時間をかけて少しずつ渡せる」なら暦年課税「60歳を超え、開業資金や医院の設備など、まとまった財産を早めに移したい」なら相続時精算課税が基本の考え方です。

ただし相続時精算課税は一度選ぶと暦年課税に戻れません。財産総額や相続税の見込みまで含めて判断する必要があり、選択は慎重に行うべきところです。

歯科医院で贈与が問題になる、3つの典型シーン

ここからが本題です。歯科医院・クリニックの先生に、贈与や相続時精算課税が関わってくる代表的な場面を見ていきます。

シーン1:子どもの開業資金を援助する

お子さんが歯科医師として独立開業する際、開業資金は5,000万〜1億円規模になります(ユニット・CT・内装・運転資金)。自己資金が足りず、親が援助するケースは珍しくありません。

ここで、たとえば親が2,000万円を援助すると、暦年課税なら多額の贈与税がかかります。一方、相続時精算課税を使えば2,500万円まで贈与税ゼロで援助できます。開業という「まとまった資金が一度に必要な場面」は、相続時精算課税が最も活きるシーンの一つです。

※援助の方法(贈与か、貸付か)によって税務上の扱いが変わります。「あるとき払い」の曖昧な貸付は、贈与とみなされることがあります。契約書・返済実態の整備が重要です。

シーン2:親子で医院を承継する(個人開業の場合)

親の代の歯科医院を、子が引き継ぐ親子承継。個人開業の医院では、次のような財産を子へ移すことになります。

  • 診療用の設備・機器(ユニット、CT、レントゲン等)
  • 医院の建物・土地(親名義の場合)
  • MS法人(メディカルサービス法人)の株式がある場合はその株式

これらを一度に贈与すると評価額が大きくなりがちですが、相続時精算課税を使えば2,500万円までは無税で移せます。設備や不動産といった「分割しづらい、まとまった資産」の承継と相性が良いのです。

シーン3:医療法人の出資持分を移す(最重要)

そして、歯科医院・クリニックの承継における最大かつ最も見落とされやすい論点が、この医療法人の出資持分です。次の章で詳しく解説します。

【歯科最大の落とし穴】医療法人の「出資持分」という時限爆弾

2007年3月以前に設立された医療法人の多くは、「持分あり医療法人(経過措置型医療法人)」です。この持分あり医療法人には、一般の家庭の相続にはない、非常に大きな税務リスクが潜んでいます。

なぜ持分が「膨らむ」のか

医療法人は、株式会社と違って利益を配当できません(剰余金の配当禁止)。そのため、医院が儲かるほど、利益は法人の中に内部留保としてどんどん積み上がっていきます。

この内部留保が積み上がると、それに連動して出資持分の評価額も年々膨れ上がっていきます。長年うまく経営してきた医療法人ほど、持分の評価が数千万円〜数億円に達していることが珍しくありません。

そして、この膨れ上がった持分を、いざ子へ引き継ぐとき——生前に贈与すれば多額の贈与税、相続で引き継げば多額の相続税が、一気にのしかかってきます。これが「持分あり医療法人の時限爆弾」と呼ばれる所以です。

対策1:計画的な生前贈与で「今の評価額」のうちに移す

持分の評価額が今後さらに上がっていくのであれば、評価額が低いうちに、計画的に少しずつ子へ贈与していくのが基本戦略です。相続時精算課税を使えば、まとまった持分を早めに移すこともできます。

ただし、持分の評価は決算内容によって毎年変動します。いつ・どれだけ移すかは、評価額のシミュレーションが前提になります。ここは自己判断が難しく、医業に強い会計事務所の関与が不可欠な領域です。

対策2:認定医療法人制度で「持分なし」へ移行する

もう一つの選択肢が、持分あり医療法人から「持分なし医療法人」へ移行する方法です。国の認定医療法人制度の認定を受けて移行すると、本来かかるはずだった贈与税・相続税の負担を、猶予・免除できる可能性があります。

持分そのものをなくしてしまえば、将来の相続・贈与で持分に課税される問題は根本的に解消します。一方で、いったん持分をなくすと後戻りはできず、出資者は財産権を手放すことになります。メリット・デメリットの両面から、慎重な検討が必要です。

※認定医療法人制度には申請期限・要件があり、制度内容は改正されることがあります。適用を検討する際は、必ず最新の制度と個別の状況をご確認ください。

まず「自院がどちらのタイプか」を確認してください

対策の前に、最初にやるべきことはシンプルです。自院の医療法人が「持分あり」か「持分なし」かを確認すること。2007年4月以降に設立された医療法人は原則「持分なし」で、この問題はありません。それ以前に設立された法人は「持分あり」の可能性が高く、早めの確認と対策が必要です。

あわせて使える、贈与の非課税特例

目的が決まっている贈与には、専用の非課税特例が用意されています。歯科医院のご家庭でも使える代表的なものを挙げます。

特例 内容 主な対象
住宅取得等資金の贈与 住宅の新築・購入資金を一定額まで非課税 子・孫のマイホーム
教育資金の一括贈与 教育資金を最大1,500万円まで非課税 孫の学費など
結婚・子育て資金の一括贈与 結婚・子育て資金を一定額まで非課税 子・孫
おしどり贈与(配偶者控除) 居住用不動産を最大2,000万円まで非課税 婚姻20年以上の配偶者

これらは相続時精算課税・暦年課税とも組み合わせられます。ただし、それぞれ細かな要件・期限があり、期限が延長・改正されることも多い制度です。使う前に必ず最新の要件をご確認ください。

※各特例の非課税限度額・適用期限は改正が頻繁です。本記事では制度の存在の紹介にとどめます。具体的な金額・要件は適用時点の最新情報でご確認ください。

歯科医院の承継対策は「早く始める」が最大の節税

贈与・承継対策に共通する結論は、「早く始めた人が得をする」ということです。理由は3つあります。

  1. 暦年贈与の生前贈与加算が7年に延びたため、コツコツ渡すには時間が要る
  2. 医療法人の出資持分は、放置するほど評価額が膨らみ、対策が重くなる
  3. 認定医療法人制度などの特例には、申請期限がある

「まだ元気だから」「まだ早い」と先延ばしにするほど、選べる手が減り、税負担は重くなります。逆に、先生が60代に入った今こそ、最も選択肢が多く、打ち手が効く時期です。

椿公認会計士事務所は、顧問先の約半数を歯科医院が占める会計事務所です。個人開業の医院から持分あり医療法人まで、贈与・事業承継の設計を数多く手がけています。出資持分の評価シミュレーション、暦年・精算課税の選択、認定医療法人への移行判断まで、一貫してご支援します。

「うちの医院は、何から手をつければいいのか」——初回のご相談は無料です。現状の棚卸しからお手伝いします。

よくある質問(FAQ)

Q1. 相続時精算課税と暦年贈与、歯科医院の承継ではどちらが有利ですか?

A. 先生の年齢と、移したい財産の性質によります。60歳を超え、開業資金や医院設備・出資持分などまとまった財産を早めに移したいなら相続時精算課税が有利です。若く、時間をかけて少しずつ移せるなら暦年課税が基本です。一度精算課税を選ぶと暦年課税に戻れないため、財産総額を踏まえた判断が必要です。

Q2. 子どもの開業資金を親が援助すると、贈与税はかかりますか?

A. 暦年課税では年110万円を超える部分に贈与税がかかります。相続時精算課税を選べば累計2,500万円まで贈与税ゼロで援助できます。開業資金のようにまとまった金額が必要な場面では、相続時精算課税が使われることが多いです。

Q3. 2024年の改正で、相続時精算課税は何が変わったのですか?

A. 年110万円の基礎控除が新設されました。年110万円以下の贈与は非課税・申告不要で、しかもこの分は相続財産への加算も不要です。従来のデメリットが大きく緩和され、使いやすくなりました。

Q4. 医療法人の出資持分とは何ですか?なぜ問題になるのですか?

A. 2007年3月以前に設立された持分あり医療法人では、出資者が持つ財産権です。医療法人は配当ができず利益が内部留保されるため、持分の評価額が年々膨らみます。承継時に多額の贈与税・相続税がかかるため、早めの対策が必要です。

Q5. 自分の医療法人が「持分あり」かどうか、どう確認すればいいですか?

A. 設立時期が一つの目安です。2007年4月以降に設立された医療法人は原則「持分なし」で問題ありません。それ以前の設立なら「持分あり」の可能性が高く、定款や登記、顧問税理士への確認をおすすめします。

Q6. 認定医療法人制度を使うと、税金はどうなりますか?

A. 持分あり医療法人から持分なし医療法人へ移行する際、本来かかる贈与税・相続税を猶予・免除できる可能性があります。ただし要件・申請期限があり、いったん持分をなくすと後戻りできません。慎重な検討が必要です。

Q7. 暦年贈与の「7年加算」とは何ですか?

A. 贈与した人が亡くなったとき、死亡前一定期間の暦年贈与は相続財産に足し戻されます。この期間が従来の3年から7年へ段階的に延長されました。駆け込み贈与が効きにくくなったため、早く始めることが重要です。

Q8. 設備や不動産も贈与できますか?

A. できます。診療設備や医院の建物・土地も贈与の対象です。評価額がまとまった金額になりやすいため、相続時精算課税と相性が良い場合があります。評価方法は資産によって異なるため、事前の確認が必要です。

Q9. 贈与の対策は、いつから始めるべきですか?

A. 早いほど有利です。暦年贈与は加算期間が7年に延びたため時間が要り、出資持分は放置するほど評価が膨らみます。先生が元気で判断力のある60代のうちに着手するのが理想です。

Q10. 顧問税理士がいますが、承継の相談は別途した方がいいですか?

A. 医業・医療法人の承継は専門性が高い分野です。日々の記帳・申告と、承継設計は求められる知見が異なります。医業の承継実績がある事務所にセカンドオピニオンを求める価値は十分にあります。


参考・出典

  • 国税庁「相続時精算課税の選択」「贈与税の計算と税率(暦年課税)」
  • 相続税法・租税特別措置法(生前贈与加算、各種贈与非課税特例)
  • 厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行計画認定制度(認定医療法人制度)」

※本記事は2026年7月時点の税制に基づいて作成しています。贈与税・相続税および各制度の要件・金額は改正されることがあります。実際の適用にあたっては、必ず最新の情報と個別の状況をご確認ください。具体的な贈与・承継の可否や有利判定は、税務相談の対象となります。

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