ご相談のきっかけ
千葉県内で歯科医院を営むF様(40代・個人事業)からのご相談でした。ご相談の内容は、意外なものでした。「経費を増やしたいのではなく、減らしたい、という相談です」。
詳しくうかがうと、税務調査が怖いあまり、判断に迷う支出はすべて自腹で払っていたのです。学会の旅費、スタディグループの会費、スタッフとの食事、休日に読む専門書。「税務署に何か言われるくらいなら、自分で払ったほうが気が楽なので」。
これは、安心を買っているようで、実際には払わなくてよい税金を払っている状態でした。
状況の整理(タイムライン)
個人事業の必要経費は、事業のために必要な支出かどうかで判断します。勘定科目の名前で決まるものでも、金額の大小で決まるものでもありません。
判断が難しいのは、事業と私生活の両方に関わる支出です。ここは「認められるか」ではなく、説明できるかで考えると整理しやすくなります。
F様が自腹にしていた支出を一つずつ確認すると、大半は事業関連性が明確なものでした。
学会・スタディグループ 診療技術の維持向上に直結します。開催要項と参加証があれば十分に説明できます。専門書・文献 同様です。スタッフとの食事 慰労や打ち合わせの目的であれば福利厚生費や会議費になります。参加者と目的の記録が必要です。車両 医院と自宅の往復、材料の買い出し、往診に使っているなら、事業使用割合で按分します。自宅の一部 医院の事務作業をしている場合、床面積などの合理的な基準で按分できます。
一方で、明確に対象外とすべきものもありました。家族だけの外食、私的な旅行、日常着として使えるスーツ。ここは線を引く必要があります。
当事務所の対応
「経費のルール表」を作りました。 支出の種類ごとに、経費にできるか、何割か、どんな証拠を残すかを一覧にしています。迷ったときにこの表を見れば判断できるので、F様もスタッフの方も悩まなくなります。
証拠の残し方を決めました。 領収書は受け取るだけでは足りません。誰と、何の目的で、という情報が必要です。会食は領収書の余白に相手先と人数を書く。学会は開催要項をPDFで保存する。車両は月に1週間だけ走行記録をつけ、その割合を年間の按分根拠にする。手間は最小限にとどめました。
按分の根拠を文書にしました。 車両の事業使用割合、自宅の按分割合について、その数字を採用した理由を1枚にまとめています。税務調査で問われるのは割合そのものより、根拠の有無です。
過去に自腹で払っていた分も、領収書が残っているものは拾い上げました。
結果
年間でおよそ90万円が、これまで計上されていなかったことが分かりました。適正に計上した結果、所得税・住民税の負担はその分だけ軽くなっています。
F様からは「怖くて払っていたお金が、実は堂々と経費にできるものだった。しかも根拠を残す方法まで決まったので、むしろ以前より安心です」とお話しいただきました。
担当者からのひとこと
経費の判断で大切なのは、グレーなものを無理に押し込むことではありません。白いものを、白いと説明できる状態にしておくことです。
「怖いから自腹で払う」という先生は、実はかなり多くいらっしゃいます。しかしそれは、税務署に言われてもいないのに、自分で課税所得を増やしているのと同じことです。
どこまでが経費か迷われている先生は、一度支出の一覧を持ってご相談ください。ルールと証拠の残し方を決めてしまえば、毎年の判断に迷うことはなくなります。