ご相談のきっかけ
千葉県内で歯科医院を営むN様(40代・個人事業)からのご相談でした。経理は奥様が担当されています。
毎月の作業はこうでした。領収書をノートに貼り、通帳をコピーし、レセコンの集計表を印刷して、封筒にまとめて郵送する。折り返し、1か月半ほど経ってから紙の試算表が返ってくる。
「今の状況を知りたいのに、返ってくる数字は2か月前のものです。それに、この作業で月に20時間近く取られています」。顧問税理士にクラウド会計の相談をしたところ、「うちは対応していません」という答えだったそうです。
状況の整理(タイムライン)
拝見したところ、作業の大半は転記と郵送に費やされていました。付加価値を生まない作業です。
もう一つ問題がありました。電子帳簿保存法により、電子的に受け取った請求書や領収書(メールに添付されたPDF、ネット通販の領収書など)は、電子データのまま保存することが必要です。紙に印刷して保存する運用では、この要件を満たせません。N様の医院では、材料のネット発注が増えており、この点の整備が追いついていませんでした。
つまり、クラウド会計への移行は「楽になる」だけでなく、制度への対応としても必要な状況でした。
当事務所の対応
口座とカードを自動連携しました。 医院の預金口座、事業用クレジットカード、電子マネーをクラウド会計に連携し、入出金のデータが自動で取り込まれる状態にしています。転記の作業はここでほぼ消えます。
支払い方法を事業用カードに集約しました。 現金払いを原則やめ、材料も消耗品もカード決済にします。これにより明細が自動で取り込まれ、あわせて経費の計上漏れも防げます。
領収書はスマートフォンで撮影する運用にしました。 その場で撮って送信すれば、紛失のリスクがなくなります。電子で受け取った請求書は、そのままデータで保存する形に整えました。
レセコンの月次集計は、売上計上のルールを決めて取り込む形にしました。 保険診療・自費診療・窓口負担金を分けて計上し、社会保険診療報酬の入金との突合も毎月行います。ここは歯科ならではの部分で、一般的なクラウド会計の設定だけでは足りません。
移行は、繁忙期を避けて2か月かけて行いました。 いきなり全部を切り替えると現場が混乱します。まず口座連携、次にカード、最後に領収書の運用、という順に進めています。
結果
経理にかかる時間は、月20時間から5時間ほどになりました。郵送もなくなっています。
もう一つの変化は、数字を見られるタイミングです。翌月の早い時期には前月の業績が確定するため、打ち手を考える時間が生まれました。
奥様からは「あの封筒を作る作業がなくなっただけで、月末の気分がまったく違います」とお話しいただいています。空いた時間は、受付業務とスタッフの教育に充てられているそうです。
担当者からのひとこと
クラウド会計は、単に経理を楽にするための道具ではありません。数字を早く見るための仕組みです。2か月前の試算表では、経営判断には使えません。
加えて、電子帳簿保存法への対応という面からも、紙を前提とした運用は無理が出てきています。
ただし、歯科医院の場合はレセコンとの連携や、保険診療の入金サイクルを踏まえた設定が必要です。一般的な導入支援では、ここが抜け落ちることがあります。導入をお考えの先生は、歯科の実務を分かっている事務所にご相談ください。