ご相談のきっかけ
千葉県内で歯科医院を営むO様(50代)からのご相談でした。所得の水準から医療法人化を決断されたところでした。
「顧問の先生に相談したら、『医療法人はやったことがないので、調べながらになります』と言われまして。悪気はないのですが、それで進めていいものか」。
医療法人の設立は、一般の株式会社の設立とは手続きがまったく異なります。ここで専門家を選び直したい、というのがご相談の趣旨でした。
状況の整理(タイムライン)
医療法人の設立で最初に押さえるべきは、スケジュールです。医療法人は都道府県知事の認可が必要で、申請の受付は年に数回しかありません。この時期を逃すと、設立は数か月単位で先送りになります。
認可申請には、設立総会の議事録、定款、事業計画書、資産の内訳、拠出する財産の一覧など、多数の書類が必要です。さらに、認可を受けた後に登記、そして保健所への診療所開設手続き、社会保険の各種手続きと続きます。個人事業の廃業手続きも並行して必要です。
O様の場合、次の申請受付までおよそ5か月。逆算すると、準備に取りかかるにはぎりぎりのタイミングでした。
そしてもう一つ。法人化で最も影響が大きいのは、実は税金ではなく社会保険とお金の流れです。ここを設計せずに設立すると、法人化後に必ずつまずきます。
当事務所の対応
設立までの工程表を作りました。 申請の受付時期から逆算し、誰がいつ何をするかを月単位で整理しています。O様に動いていただく部分は最小限にし、書類の作成は当事務所と提携先で進めました。
役員報酬を設計しました。 法人と個人の税負担、社会保険料を含めて試算し、初年度の報酬額を決定しています。役員報酬は事業年度の開始から3か月以内にしか改定できないため、設立時の設定は特に重要です。あわせて、奥様の理事就任と報酬についても、業務の実態を踏まえて設計しました。
社会保険の扱いを確認しました。 医療法人になると社会保険への加入が原則必要になります。歯科医師国保に加入している場合の取り扱いを含め、加入の手続きと保険料の負担額を事前に試算し、資金繰りに織り込んでいます。
法人と個人のお金の線引きを、設立の時点で決めました。 これが最も重要な部分です。法人の口座から個人の支出を払わない、個人の生活費は役員報酬の範囲で賄う、医院の建物が個人所有なら賃貸借契約を書面で結び、相場に基づく賃料を設定する。これを最初に徹底しておかないと、役員貸付金が膨らみ、後々の税務調査で必ず問題になります。
結果
予定していた回の認可を受け、無事に医療法人として運営を開始しました。設立初年度から、法人と個人の資金は明確に分かれています。
O様からは「法人化は手続きが大変だと聞いていましたが、いちばん大事なのは手続きではなく、お金の流れの設計だったのだと分かりました」とお話しいただきました。
担当者からのひとこと
医療法人の設立は、認可のスケジュールに縛られます。思い立ってすぐにできるものではありません。まず、次の申請受付がいつかを確認するところから始めてください。
そして、設立の前後で決めておくべきことは、手続き書類よりも役員報酬と資金の線引きです。ここを曖昧にしたまま走り出すと、数年後に役員貸付金という形で問題が表面化します。
法人化を検討している、あるいは決めたという段階でご相談いただければ、スケジュールと設計の両面からご支援できます。