ご相談のきっかけ
埼玉県内で歯科医院を営むH様(50代・個人事業)からのご相談でした。開業12年、患者数は安定しています。それでも資金が回らない、というお悩みでした。
確認すると、借入は4本に分かれていました。開業時の設備資金、数年後のCT導入資金、運転資金、そしてコロナ禍の際に借りた資金。残債の合計は3,200万円、月々の返済額は約70万円です。
「返済のために働いているような感覚です。利益は出ていると言われますが、返済が終わると手元に何も残りません」。
状況の整理(タイムライン)
最初にご説明したのは、借入の返済は経費にならないという点です。経費になるのは利息だけで、元本の返済は税引後の利益から支払います。
H様の場合、年間の元本返済は約780万円。これを払うためには、税金を払った後に780万円が残る必要があります。所得税率を考えると、税引前でおよそ1,200万円以上の利益が要る計算です。利益が出ているのに現金が残らないのは、このためでした。
次に、4本の借入条件を一覧にしました。開業時の設備資金は金利が現在の水準より高く、残りの返済期間も短い。運転資金は返済期間が5年と短期で、月々の負担を押し上げていました。
整理すると、H様の問題は「借りすぎ」ではなく、返済のペースが医院の収益力に合っていないことでした。
当事務所の対応
4本の借入を一本化し、返済期間を延ばす方向で交渉することにしました。 借り換えの可否は、過去の決算書だけでは決まりません。これから返せるかどうかを、金融機関が納得する形で示す必要があります。
金融機関向けの資料を作成しました。 直近の試算表に加えて、レセコンから抽出した新患数・リコール率・自費比率の推移、今後3年間の収支計画、借り換え後の資金繰り予測。返済額を軽減することで、どれだけ安定した返済が可能になるかを数字で示しました。
金利の条件も比較しました。 複数の金融機関に同じ資料を提示し、条件を並べて検討しています。既存の取引銀行に事情を説明することも含め、選択肢を一つに絞らないことが大切です。
あわせて、返済比率の目安を共有しました。 年間の返済額が、返済前のキャッシュフロー(利益+減価償却費)に対してどのくらいを占めているか。ここが高すぎると、設備の更新も採用もできなくなります。今後の投資判断の基準として、この比率を毎年確認する運用にしました。
結果
借り換えにより、月々の返済額は約70万円から約45万円になりました。年間でおよそ300万円、手元に残る現金が増えた計算です。
返済期間が延びたことで支払う利息の総額は増えますが、H様と相談のうえ、今は資金の余裕を優先する判断をしました。浮いた資金の一部は、後回しになっていた設備の更新とスタッフの処遇改善に充てています。
H様からは「借り換えという発想自体がありませんでした。借りたものは決まったとおりに返すしかないと思い込んでいたので」とお話しいただきました。
担当者からのひとこと
開業時の借入は、多くの場合、事業の実績がない状態で条件が決まっています。数年が経ち、患者数も収益も安定してきたのであれば、その条件は交渉の余地があります。
ただし、借り換えは決算書を持っていくだけでは進みません。金融機関が見るのは過去ではなく、これからの返済能力です。数字の裏づけを持って話をするかどうかで、結果は変わります。
返済が重いと感じている先生は、まず借入の一覧(残債・金利・返済期間・毎月の返済額)を作ってみてください。それを持ってご相談いただければ、見直しの余地があるかどうかをお伝えできます。