ご相談のきっかけ
埼玉県内で歯科医院を営むQ様(40代・個人事業)からのご相談でした。本院は軌道に乗り、勤務医も育ってきたため、2院目の開設を検討されていました。
「顧問の先生に相談したら、『2院目ですか、大変ですね』で話が終わってしまって。採算が取れるのかどうか、一緒に考えてほしかったのですが」。
状況の整理(タイムライン)
分院展開を前に税理士を見直したほうがよい理由は、大きく3つあります。
理由① そもそも、個人事業のままでは分院を開設できない。 これが最も重要な点です。医療法上、個人開業の歯科医師が複数の診療所を開設することは、原則として認められていません。診療所の管理者は原則としてその診療所に常勤する必要があるためです。つまり、分院展開を本気で考えるなら、医療法人化が前提になります。Q様はこの点をご存じなく、「法人化はまだ先でいい」と考えておられました。ここが分かった時点で、計画の順序が変わりました。
理由② 分院別の損益が見えないと、撤退も継続も判断できない。 2院をまとめた決算書だけを見ていると、本院の利益が分院の赤字を隠してしまいます。どちらが稼ぎ、どちらが沈んでいるのかが分からないまま数年が過ぎる、というのは実際によくある話です。
理由③ 開設資金の調達は、本院の決算書で決まる。 分院の開設には、まとまった資金が必要です。金融機関が見るのは本院の実績と、分院の事業計画です。決算書が「申告のためだけ」に作られていると、この場面で不利になります。
当事務所の対応
まず、医療法人化を先に行う計画に組み替えました。 認可申請の受付時期から逆算し、法人設立、その後の分院開設という順序で工程表を作成しています。法人化と分院開設を同時に進めようとすると、どちらも中途半端になります。
本院の会計を、分院を持つ前提で作り直しました。 部門別の管理ができるよう勘定科目と補助科目を整理し、本院の数字を単独で評価できる形にしています。この準備をしておかないと、分院を開設した後に過去との比較ができなくなります。
分院の事業計画を作成しました。 立地の患者動向、ユニット台数と想定稼働、勤務医と歯科衛生士の人件費、内装と設備の投資額、開設から黒字化までの期間。保守的なケースも並べ、最悪の場合に本院の資金がどこまで耐えられるかを確認しました。
金融機関向けの資料も、この計画をもとに整えました。 本院の実績(新患数・リコール率・自費比率の推移)と分院の計画を一体で示すことで、説得力が大きく変わります。
結果
Q様は、まず医療法人の設立を進め、その翌年に分院を開設する計画に切り替えました。急がば回れの判断です。
本院の会計は部門別の管理に移行済みで、分院開設後はそれぞれの損益が毎月確認できる体制になっています。
「分院を出せないと知らないまま物件を探していたら、大変なことになっていました。順番を教えてもらえたことがいちばん大きい」とお話しいただきました。
担当者からのひとこと
分院展開は、医院経営の中でも最も大きな意思決定のひとつです。そして、走り出してから引き返すのが最も難しい判断でもあります。
物件を探し始める前に確認すべきなのは、開設の形(医療法人化が必要かどうか)、本院の数字が単独で評価できるか、そして資金計画です。この3つが整っていない状態で進めると、選択肢が狭まります。
2院目を考え始めた段階で、一度ご相談ください。早い時期にご相談いただくほど、取れる順序の選択肢が多くなります。